■
会社を出て駅に向かって歩いてたら、うしろからポンッと肩をたたかれた。
びっくりしてふり返ると、「「おつかれー」」ってハモる桐山先輩と濵田先輩。
「わー、お疲れさまです!」
「わーってなんや(笑)」
「こらこら、こんな時間に女の子が一人で歩いてたら危ないやろー」
現在19:17。
濵田先輩の "こんな時間" の定義とは…とか考えていたら、
「あ、俺らこれから飲みに行くねんけど、お前も来るか?」
「えっ!いや、でも、」
「おお、いいやん!一緒行こうや!」
突然のお誘いに少し迷ったけど、明日は休みだし、せっかくの先輩のお誘いなのでちょっとだけお付き合いさせてもらうことに。
(そういえば、淳太くんも今日は遅くなるって言ってたし!)
「特別に俺らの行きつけ教えたるわ(笑)」って連れて来てもらったお店はすごく雰囲気のいい素敵なところで、会社でもムードメーカーな先輩たちの話はとっても楽しくて…
…ちょっとだけのはずが、気がつけば日付けが変わる少し手前で。
「おーい、大丈夫かー(笑)」
「…はい、だい…じょぶです…」
「いやぜんぜん大丈夫ちゃうな(笑)」
「これ一人では帰されへんよなー(笑)」
「ほーら、帰るでー」
「はい…」
「家まで送ったるから(笑)」
まだボーッとした意識のまま、家のドアを開けると、
「やっっと帰ってきた! こるぁ、お前いま何時や思てんねん! どこほっつき歩いててん!」
って、まだ姿も見えないのに部屋のなかから聞こえるお怒りの声と、近付く足音。
「え、この声、」
あ、待って、やばい。
つい何秒か前までが嘘かのように、サーって酔いが覚めていく。
そして、ガチャッ!! と思いきり開いたリビングのドアから出てきたのはもちろん…
「淳太くん!?」
「え、は!?淳太!?」
終わった。
ごめん淳太くん…これはもう、酔ったフリして黙ってよう(笑)
「………はっ!? お前らなんでおんねん!!」
「はい?こっちのセリフですけど?(笑)」
「え、うーわ、淳太お前まじか(笑)」
「いや…待って、ちょっと待って、ちゃうねん、いやちゃうことないけど…ふっ(笑)」
「わかりやすくテンパってはるわー」
「テンパりすぎて笑ろてもうてるやん」
「ちょほんま、ニヤニヤすんのやめろや」
「無理やろ〜!」
「まーさか淳太くんが後輩に手ぇ出すとは!」
「いや言い方よ!」
「え、待っていつから?」
「去年のー…」
「去年!?ウソやろ!?」
「ぜんっぜん気づかんかった!」
「せやろ」
「なにドヤってんねん褒めてへんわ(笑)」
「ていうかなんで淳太やねん、きっかけなに?」
「そうやねん、とりあえず色々聞きたいんですけど」
「ほんっまにやめて、まじで、お願い(笑)」
よっぽど精神的ダメージを受けているのか、桐山先輩と濵田先輩にけっこうな密着度で支えられたままほったらかしにされてる私になかなか気付かない淳太くん。
そろそろ心細くなってまいりました。
「あの…」
「ん? あっ(笑)」
「うわ、完全に存在忘れてたわ(笑)」
「いやそうやで!はよ離れて!!」
「はーい、ほらー自分で立てるかー?」
そう言われて自力で立とうとしたら思いのほかグラッと世界がまわって、
「っぶな、」って淳太くんに抱きとめられる。
「ダーリン、ナイスキャッチー♡!」
「ちょーもうイチャイチャせんといてー恥ずかしー♡」
「うっさいわ、もーはよ帰れや(笑)」
「うわっ!大事な彼女を送り届けた親友たちに対してそれですか、冷たいわー」
「彼女って知らんかったやろ(笑)」
「お2人ともホントすみませんでした…、ありがとうございました…!!」
「またメシ行こなー♡」
「そんときは淳太くんとの話聞かしてなー♡」
「はい!」
「はいちゃうわ!お前はほんま…」
「(笑) 濵ちゃんそろそろ帰ろか」
「んーお邪魔しましたー」
「うん、ありがとうな、気ぃつけて」
2人を見送って、急に静かになる。
「えーっと…」
「とりあえず水飲んで着替えて」
「はい」
言われた通り着替えを済ませてリビングに戻ると、正座に腕組みで待ち構える中間先輩…
「座って」
「はい…」
「で?」
「えーと…帰ろうと思ったら先輩たちに会って…」
「ちゃう」
「えっ、」
「携帯は?」
「あ…」
そういえば、携帯をカバンに入れたまま淳太くんに連絡するのもすっかり忘れて、いつのまにか酔っ払っちゃってたんだ…と思い返していると、突然 ぎゅっ と抱きしめられる。
「めっちゃ心配した」
「ごめんなさい…」
「帰ってきてくれたからそれでいいわ」
どう考えても圧倒的に私が悪いのに、そんなこと言われたら泣きそうになる。
「淳太くん、」
「ん?」
こうやって大切にしてくれるところが、いつもいつも優しすぎるところが、本当に、
「だいすき」
「うん、知ってるで」
つぎ会社に行ったら、菓子折を持って先輩たちに謝罪とお礼をしに行こう(笑)
end